mu-tron iiiの修理で分かった☆回路解説と電源の注意点【MU-TRON Ⅲの修理-2】

ミュートロンの回路構成がなんとなく分かったので掲載しておきます。

断線箇所

入力部は反転アンプです。 ここからフィルター部と制御系に分岐します。

入力部

まず制御系からです。 入力信号の振幅をオペアンプを使った理想ダイオード回路で直流に直しているようですね。 その先の4.7μFの電界コンデンサの容量を変えたら充放電の時間が変わってフィルタの反応が変わりそうな気がします。

理想ダイオード

ドライブというスイッチがありますが、これはアナログフォトカプラのLEDをどうドライブするかというスイッチです。

強い入力に対してLEDが点灯するのか、逆に点灯していたものが消えるのか。

正確には分からないのですがオペアンプの反転回路と非反転回路を入れ替えるような仕組みです。 この回路図が合っているのかも分かりませんし大まかな検討だと思って下さい。

LEDをドライブするアンプ

肝心のフィルタ部はステートバリアブルフィルタです。 3個のオペアンプを使用する複雑な回路ですが、カットオフ周波数とゲイン幅とQのパラメータを自由に決めることができます。

パラメトリックイコライザーを動作させるためのバンドパス信号を取り出す回路としてよく使われます。

オペアンプの間に220kオームの抵抗がふたつありますが、ここを変化させることで周波数を変えることができます。 そこにアナログフォトカプラのCDS側をつないであります。 CDSは光が当たると抵抗値が下がる性質があるので、入力の強弱に合わせて制御系がLEDを点灯するとフィルターの周波数が可変することになります。

ステートバリアブルフィルタ

ステートバリアブルフィルターは3カ所から信号を取り出すことができます。 場所によってハイパス、バンドパス、ローパスとなります。 ミュートロンにはこれらを選ぶスイッチが付いています。

出力部

というわけで、エフェクターとしてはかなりの飛び道具ですが、内部の回路は非常にスマートにできています。

最後に電源部です。 このエフェクターはグラウンドを中心にプラス9ボルトとマイナス9ボルトで動いています。

回路図を見ていて気がついたことがあります。

電源部

このエフェクターは電源に問題があります。 電池を入れたままアダプターをつなぐと、電池の両端に電源アダプターの電圧がかかります。 つまり減った電池を充電してしまうのです。

充電式でない電池を充電するのは破損することもあるので危険です。

今回の故障の原因はおそらくこれです。 電池を入れたままアダプターをつなぐ。 電池が液漏れを起こす。 電池から漏れた液が基板面に着く。 基板パターンが腐植して絶縁を起こす。

事故調査委員会のようにトラブルのシナリオが書けてしまいました。 古いミュートロンを使っている人は気をつけて下さいね☆

 


共振とビリつきの原因【レスポールカスタムのメンテナンス-2】

ずっと悩んでいたブリッジ付近の謎の共振のメカニズムが分かってきました。 どうやらサドルのオクターブネジが弦振動に共鳴するようです。

異音がするブリッジ

ギブソン系のブリッジに付いているサドルはよく下図のように傾いています。 これはサドルのネジ穴が下側に誤差が出るように加工されているからです。 上に誤差が出るとそのサドルにはネジが通らず、そのまま廃棄になってしまうからではないでしょうか。

シーソー状態のサドル

サドルがシーソーのように動いてしまいあまり良い状態とは言えないのですが(弦溝切りの作業もしにくいです)、ひとつ利点があるようで、弦の張力がかかったときにオクターブネジを下に押さえ付ける方向に力がかかるので、ネジの共振が抑えられるのです。

精度良く加工されたサドルの場合は下図のようになります。

シーソー状態でないサドル

サドルの両脇がしっかりブリッジに付いていて弦振動を上手くボディまで伝えてくれそうですが、一直線上に並んだネジ穴の中でネジが遊んでしまってカラカラと共振することがあるようです。

ネジの先にグリスやネジどめ剤をさすなどすれば止まることが多いようですよ。 ネジに合ったナットを付けてブリッジの内側からネジを突っ張るという固定方法もあるかもしれません。 ちょっとタイトすぎる気がしますが。 人間と一緒でギターも遊びがあるくらいが良いように思います。

ビスの先にネジとめ剤

2・3・4弦のローポジションでのビリつきは、微妙な逆反りとブリッジの反りだと思われます。 写真のようにストレートをあてると隙間ができます。 1・6弦に合わせてブリッジの位置を決めると中央の弦高がとても低くなってしまうのです。

ブリッジが反っている

弦を張るとこの反りはさらに大きくなります。 元の状態に戻る方向に力をかけるしかないのですが、同業者によるとその方法をギタークラフト科の生徒に教えている最中に折れたそうなのでリスクの伴う作業であることは確かでしょう。 お客さまと相談しながら直します。

 

 

 

 


0.03mmという小さくて大きな差!【フェンダーメキシコJBの修理-2】

ハイポジションが起きてきがちなネックですがヒーターはよく効きます。 弦を張ってみてもなかなか良い感じです。 問題はこれをどうやって維持しようかというところです。 今回は新しいアイデアを試していきます。

ヒーターはOK

まずはフレットを抜きました。

フレットを抜く

フレットを抜く時に軽くスチームをあてて木を柔らかくしますが、それでも少し指板面が持ち上がります。それをまたスチームをあてながらおさえつつ、低粘度の接着剤で固定します。

起きた指板面をおさえる

テフロン製で0.5ミリ厚の薄板を差し込んでフレットの溝を一端埋めていきます。

フレット溝を埋める

これはフレットの溝が度重なるフレット交換で緩くなってしまったときにする工程ですが、今回はあえてこの工程をはさみます。

溝はこんな感じ

フレットの溝を整えるノコにはいろいろな厚みのものがあります。

2種類のノコ

こちらは0.56ミリ。

0.56ミリ厚

こちらは0.53ミリ。実測ではもう少し細く出ますね。

0.53ミリ厚

フレット溝を埋めると0.56ミリで溝を仕上げてもフレットの厚みで少しネックが逆反り方向に動きます(厳密にはスタッドの厚みで)。 おそらく0.53ミリだともっとでしょう。 ローポジションは少し逆反らせるくらい、ハイポジションはもっと逆反らせる。そういう状態を狙ってふたつのノコを使い分けようという作戦です。

ノコを使い分ける

ジェスカーのフレットは24本入りです。 このベースは20フレット仕様です。 製作中のWife風レリックベース用に仕入れていたフレットがありますが、3本しか使わないので残りの(?)21本を使いましょう。

フレットを分ける

ジェスカーフレットは曲がり具合がとてもきれいです。少し追加で曲げ加工を施すとすぐこのくらいのフィット感に持っていけます。指板のRに合わせて押し込むことで後々バネのようにフレットが浮いてくることを避けるようにしています。

ジェスカーの精度

指板修正時に指板のRをきっちり作っておくこと前提ですが、ジェスカーならこれくらい光がもれないように加工できます。

フレットを打ってみたところが写真です。

フレットの圧入

とりあえず今のところ良い反り方をしていますよ。 フレットがハイポジションを維持してくれますように。

 


ジャズベースの直列(シリーズ)or並列(パラレル)配線のバリエーションについて

スイッチポットを利用したジャズベースのシリパラ配線にはこれと・・・

ジャズベのシリーズ・パラレル配線その1

これがあります。

ジャズベのシリーズ・パラレル配線その2

上の配線パターンはSonicのターボJベースに採用されているものです。 ラムトリック時代にたくさん製作しました。

今回FUJIGENのJBタイプを分解していて気がついたのですが、以下のような配線が採用されていました。

FUJIGENのシリーズパラレル配線

そういえば確かにこれでも動きますね。 今まで全く気がつきませんでした。 なぜ今までこの配線と出会わなかったのでしょうか。

考えていて分かったのですが下の配線は、ひとつ上の配線とほぼほぼ同じで、斜めにショートカットせずにスイッチの接点をひとつ多く経由しています。

考えられるデメリットは・・・

「スイッチ故障のリスクが無駄に増える」

「スイッチポットは多くの場合オープン方式なので切り替え時に音が一瞬途切れるが、スイッチが多く挟まることでよりながく信号が途切れる方の影響を受ける」

などがありそうです。

一方メリットはスイッチのハンダ付け端子の穴を広げたり端子の向きを斜めにしたり、さらにはジャンパー線の絶縁をする手間なく手早く作業が可能であることでしょう。

たいしたデメリットでもないですし、この配線を選ぶのも作業の1秒1秒を削り出す努力の賜と言って良いでしょう。 こうやって価格と品質の両立をうまく両立した楽器をユーザーに届けているのだなあと感心した話でした。 このベースは勉強になることが多かったです。 小さな修理工房では考えないような工場ならではのアイデアにとてもドキドキしました。

 

 


PBピックアップのねじ穴の開け方

PBピックアップ取り付けついてです。 先日の加工ではこんなふうに斜めにねじ穴をあけました。

ネジ穴を開ける

意図としてはナベネジの底がカバーにまっすぐフィットするようにということなのですが、考えてみれば、ピックアップをどんどん高くしていくとピックアップはセンターから外へ移動していくことになります。

斜めにあけたとき

自分で出したセンターを否定するようで精神衛生上よくないです。

また楽器のオーナー様の好みなどで、音量の調整のために極端に傾けようとした場合、ネジが斜めになっている方が極端な旋回をしてカバーの外側が、ピックガードに干渉しそうです。

旋回軌道

そういう意味ではやはり通常通りの垂直ねじ穴がやはり良いのかもしれません。

真っ直ぐにあけたとき

ラムトリック時代にSonicセミナーでさんざんドヤ顔で言っていたことと考えが違ってきてしまいました。 静的に見れば良くても調整する工程を動的にとらえるとイマイチといったところですかね。

ネジ穴の位置決め

このベースに関しては良い位置で収まっているのこのままで問題ないですが、今後はこの方法は採用しないかもしれません。 ちょっとしたことですが考え出すと奥が深いですねえ。